こうやって見ると、洋服屋って多いんだなとおもう。民族衣装を全面に押し出した観光客向けの店が一番多いが、全体的には女性向けの服を前面に押し出した洋服屋が多い。少し進むと飲食関係の出店がずらりと並んでる。ルルーシュと二人で店を適当に流し見していると、スザクが何か買ってきた。
「ルルーシュ、これ着て」
「なんだ?もう買ったのか?」
スザクのてには紙袋があり、それをルルーシュに渡した。
結構厚みのある袋だった。着てという事は、服なのだろう。
「お前、買うなら自分の服を買え」
「僕はいいから。これを着て、今すぐに」
絶対に引かないと解る表情で、スザクはそれをぐいぐいと押し付けた。
一体何なんだと思いながら、ルルーシュが袋から出した物をのぞき見る。
広げて解ったのは黒のフード付きロングコートだということと、何処からどう見てもルルーシュには大きいサイズだという事だった。それには、俺だけではなくルルーシュも訝しげに眉を寄せた。
「・・・おまえ、服の趣味はともかく、買うならせめてサイズを合わせろ」
大きすぎると文句を言う。まあ、当然だよな。
こんなの俺が着たってぶかぶかだ。
「大きいのを選んで買ったんだよ。君は目立ちすぎる」
スザクの言葉で、あ、そう言う事かと理解した。
「俺は目立ってなどいない。大体、それとサイズ違いは関係ないだろう」
「ルルーシュさん、ルルーシュさん、私もスザクに同意します」
理由がわかればこのぶかぶかコートには完全同意するしかない。
ルルーシュは顔もいいが、スタイルもいい。だから、遠目からでもモデルや俳優じゃないかと思うぐらい目立つのだ。だからわざとサイズ違いのコートを着せて、その体系もろとも隠そうって話なのだ。
「は!?なぜだ!」
「いいから着て」
「そうそう、着ろって。あ。フードよりこっちの方がいいんじゃないか?」
俺は丁度店先にあった帽子に目をつけた。
「どーれがいいかな・・・お、これがいい。おばちゃん、これ買うわ」
「おい、リヴァル」
「いいから、ほら着て」
ルルーシュが文句を言う前に、スザクはコートをルルーシュの手から奪うと、その肩にかけた。俺もさっさと会計を終えると「これで完璧でしょ」と、その頭に帽子をかぶせた。
「だから、何を!」
「だから変装だろ?ルルーシュさん、君はね、目立つんだよ。ものすご~く目立つの。な~んにもしてなくても悪目立ちするんだから、ちょ~っと隠そうな?じゃないとおじさん疲れちゃうからさ」
いやホント、冗談抜きで既に疲れてるから。
「・・・そんなに目立つか?」
真剣な俺たちを見て、ようやくルルーシュの心がぐらついた。というか自覚ないの?まじで?いままでも目立つから浚われたんでしょ?何回も経験してるんでしょ?怖っ、この子怖っ!今までホントよく無事だったな!?そうだ、こいつ悪運だけは強いんだよな。でもそんな悪運なんてのあてにならない事はあいつのとんでも人生で確認済みだから、おじさんがしっかりと危機管理について説教してやる、覚悟しておけよ。
「うん。君は気づいてないかもしれないけど、有名人が堂々と歩きまわっているレベルで目立ってるよ」
「そうそう、こんな美人が歩いてたら、まあ気持ちはわかるけどな」
思わず二度見する気持ちもわかる。
「男に美人は褒め言葉ではない!」
「わかったから、袖に腕通して」
絶対に引かない態度のスザクにルルーシュは折れた。
ここでいくら言い合いしてもおっさんと好青年には勝てないと思ったのだろう。渋々とはいえ袖を通した。洗練された姿が隠されて、野暮ったい雰囲気に変わる。おお、これいいんじゃないか?さっきより確実に目立たない!
先ほどからずっとルルーシュを見ている連中にはバレバレだから無意味だが、それ以外の歩行者はルルーシュの方を見なくなっていた。効果絶大。スザクもそれに気付いたのだろう、コートを着る前からこちらを見ている連中に不愉快だと視線を向けてはいるが、それでも先ほどより表情は穏やかになった。
「まったく、心配性だな」
呆れたように笑いはするが、怒ってコートと帽子を脱ぐ事は無かった。本気で心配しているのだという事が伝わったんだと思う。
自分たちの服も選び、先ほどのコインランドリーに戻る。
一緒に入ればルルーシュだとばれてしまうから、入るのは俺。
一人でぶらりと入り、ふんふんと上機嫌に鼻歌を歌いながら、間もなく乾燥が終わる3層の洗濯機を見つめた。とっくに終わっている男たちは、じろりとこちらを睨んできたが、目当てのルルーシュが居ないから、それだけで終わった。ルルーシュのが止まり、すぐに俺のが止まる。二人から預かった鍵でロックを外し、まだ暖かい3人分の服を乱暴にそれぞれの袋に詰める。畳みたいけどここじゃ無理だ。あとで皺になったとルルーシュが騒ぎそうだが、そのときはアイロンぐらいかけてやるさと、俺はさっさとそこを後にした。
スザクはというと、変装前からルルーシュを狙っている男たちがいつまでもついてくるから、まるで騎士だったあいつのようにきっちりと護衛をしている。
いやー、俺一人じゃなくてよかったホントに。
そんなことを思いながら俺は二人と合流した。